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静寂でも。

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静寂でも。






冒険者が結成する個人ギルドZempには、
色々な流れで魔王が居候している。
仕事を斡旋し、本来の意図から外れた魔法を伝授した女弟子に、
幼い娘を預け、何だかよくわからない仕事しているらしい。
魔王だけあって、変な知識を蓄えており、
安易に助成を頼むと痛い目に遭わされたりもするが、
巷の噂よりずっと庶民的で付き合いづらさもなく、
住民の意図を組んでくれるぐらいの良識はあった。

そのような事情はさておき、ギルドマスターのフェイヤーを押しのけて、
メンバーの信頼と支持を得ている剣士、鉄火が風邪を引いた。
Zampの実質的中核として、個性派揃いのメンバーを日々叱咤し、
何とか纏め上げている彼に、覇気もなく咳き込みながら、
「一日ぐらい大人しくしていられないのか?」
と、言われて尚、暴れるだけの非常識さは、
流石に誰も持っていなかった。
普段からありとあらゆる面倒ごとを押し付け、
迷惑をかけている自覚はそれぞれ持っているのだ。自覚だけは。
何より、毎日のように喧嘩をしている元カノの紅玲が看病に入り、
反発ばかりの直属の部下、祀が悪態一つつかないあたりから、
病状は深刻である。
必要以上に皆無口となり、
喧騒に満ちた普段の様子はどこへやら。
騒がしいことで有名なZampのギルド寮とは思えない、
神妙な空気が部屋に満ちていた。

当然、居候とて例外ではない。
なんすか、お通夜の最中ですか。鉄は死ぬんですか等と、
不謹慎な事を考えてはいても、敢えて口に出す必要もなく、
カオスも居間のロッキングチェアを占領し、
静かに仕事の書類を読んでいた。
そこにちみちみと彼の幼い娘、キィがやってくる。

「おとうたん、おとうたん。」
なんとなく静かにしなければいけないことや、
普段世話を焼いてくれる紅玲が忙しいことなどは、
小さくてもわかっているらしい。
誰に言われることもなく、カオスの古い友人のところに行くと、
朝から愛ぬいぐるみを連れて出かけたのに、
いつの間にか戻ってきたようだ。
誰に似たのか、うちの娘は神出鬼没なところがある。
「おう、何だ、帰ってきたのか。」
どことなく元気がないのを抱き上げて、膝の上に乗せれば、
小さい人は困った顔で聞いてきた。
「おとうたん、かなちきせいめいって、なんだい?」

また、うちの娘が変な言葉覚えてきた。

「なんだよ、それ。あれか、オリ太か。また、オリバーか。
 ったく、あいつもしょうがないな、ゲームばっかりやってて。
 これだからヴァンプは。」
本日の保育先に文句を言っても、
元ネタがわかるだけに、彼も似たようなものである。
さて、どうしたものかと、カオスは肩を落とし、膝の上の娘を眺めた。

娘は相変わらず小さい。
見た目よりは賢いものの所詮はたべこ。
即ち、食べて寝るだけが関の山の子とは、
彼がキィたち赤ん坊につけた呼称だが、その評価が覆ることはない。
下手をすれば寝ることすら上手く出来ずに泣きわめき、
周囲に当り散らす軟弱ぶり。
実に弱っちくて、他からの庇護がなければ、
ろくに生きることも出来ないばかりか、
万全を期しても、あっという間に居なくなる。
当然、庇護どころか意味もなく憎まれ、理不尽な仕打ちを受けても、
己の身を守ることは愚か、逃げることも出来ない。
ただ、泣きながら殺されるのを待つしかない。
己が疎まれる理由もわからずに。
ただ、悲しい、寂しいと嘆くだけで、周囲の都合に振り回され、
安易に虐げられる存在であることは変わらない。

そして己が彼女らのため、魔王となったことに後悔も、
違えたものを正す気が毛頭ないのも変わりがない。

触れてはいけないものに触れてしまったとは思わなくもないが、
世の中にはどうにも出来ないことがある。
嫌ですよ。多少なりともなんとか出来るのに放置して我慢するとか。
しかし、何も出来ないことで俺からの保護をまんまと得たのだから、
結果的強か。大したものと言えなくもない。
そんな今更ながらな思考を飛ばし、カオスは首を傾げた。
キィは文字通り、赤ん坊に毛が生えた幼児である。
説明しても理解できるかどうか怪しく、理解してもどうせ直ぐに忘れる。
適当にごまかしたり、断っても、反発や抵抗する能力もない。
だが、己に不備がない程度にとの但し書きがつくものの、
経過はどうあれ、そうすると決めたからには、
彼女ら小さい人が安穏と暮らすためにも、
要望にはできるだけ答えてやりたいと彼は思った。
また、その多角な情報網と集積した知識を元に、
道を示すのが本来の役目として、質問には答えたい衝動もあった。

しかし、ゲームキャラクターの一人が、
敵とエンカウントした際に放つ決め台詞に、
意味など有って無いようなものだ。
そもそも、悲しき生命ってどういうことよ。俺もわからん。

答えを探して彼は空を仰ぎ、
膝の上の娘にわかるよう簡単な言葉に直しながら、
一つ一つ区切って話した。
「あれだよ、ヘレナは悪いやつを倒したり、
 友達が楽しく暮らせるよう、色々頑張っているだろ。
 そのためにあちこち走り回っているのに、
 自分がやってることが良いとか、悪いとかも、
 ろくに判ってない奴らが邪魔するわけで、
 大した理由もなく人に迷惑かけるとか、なんてお馬鹿ちん。
 お馬鹿すぎて哀れで悲しい。引いては可哀想な奴らってことだよ。」 
「じょかしゃん? じょかしゃんのこと?」

どうしよう。
具体例、出てきちゃった。

部屋が静まっているだけに、
親子の会話は同席していたもの全員に聞こえており、
言葉に詰まったのはカオスだけではなかった。
何もなければ、喧騒の嵐となったかもしれないが、
幸か不幸か、それは禁止されている。
微妙な苦笑いを浮かべて互いの顔を見合う仲間たちを鼻で笑い、
幼児に指名を受けたアサシン、ジョーカーが仏頂面で苦情を呈した。
「そう言う内容で、毎回ボクの名前が上がるのって、
 非情に不本意で遺憾なんだけど。」
「そんなこと言ったって普段の行動がね。」
「むしろ、きいたんにそう思われている言動を反省しなよ。」
出来るだけ淡々と、ふてくされるジョーカーを周囲が宥める。
自業自得ではあるが、この状況で名前が上がる、
しかも幼児に言われるって最悪だな。
そんな感想が自然に浮かび上がってくる。
それでも確かに毎回叩かれるのは気の毒であり、
今回、ジョーカーとは駄目な方向性も違う。
キィも周囲の雰囲気から、どうも違うらしいと考えているようだ。
不可解そうな娘を見つめ、
ひとまず、カオスはフォローに回ることにした。
「んー そうじゃなくて、もっと、なんだ、悲しいだから…
 周りに迷惑なだけの、目的も、大事なこともない、
 何もない可哀想な奴らって感じかな。」
「フェイお兄ちゃんかい?」

おっと、これは予想してなかった。

フェイお兄ちゃん、
つまりフェイヤーは仮にもこのギルドのマスター、
言い換えれば最高責任者である。
彼の名前が上がって良いような状況ではない。
キィの言葉に周囲は絶句し、カオスも対応に困った。
「ちょっと待て、なんでそう思った?」
口の端が引きつるのを感じながら問いてみれば、
幼児はさも不満そうに答えた。
「だって、おにいちゃんは、ねんじゅうよっぱらいだよー
 おねえちゃんたちに、めいわくばかり、かけているよー」
「あー そう言うことか。」
大体理解してカオスが相槌を打つと、小さな娘は更に言った。
「それに、おさけばっかりのんで、ほかにたのしみもないよー」
そのままふんと鼻息荒く、お兄ちゃんへの不快を示すと、
キィはカオスの膝から滑り降り、とっとと何処かへ去っていった。
残された大人たちは必死で震える肩を抑え、言葉を飲み込む。

「効くわぁ…きいたん、地味に急所ついてくるわ… 
 これは僕も傷ついたわ…」
「だからさぁ、そうなった普段の言動を反省しなよ、フェイさんも。」
「フェイさんに比べれば、ボクも大したことない、よね?」
「いや、それは考え甘いと思う。」
ぽつぽつと溢れる周囲の反応を耳にしながら、
カオスはため息を付き、書類に目を戻した。
どれだけ神妙な空気が流れていても、このギルドで起こり、
交わされる会話の内容は大差ない。

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